はじめに
訪問介護では、初対面からスムーズに支援ができるとは限りません。
今回は、認知症のある利用者さんに**「不倫相手と間違われた」**という衝撃のスタートから、信頼関係を築くまでの約10日間のエピソードをご紹介します。
これから訪問介護を始める方や、介護拒否に悩んでいる方のヒントになれば嬉しいです。
出会い
モーニングケアで訪問に入りました。
玄関でチャイムを鳴らし、長男に案内され部屋に向かうと突然、大声が響きました。
「ちょっと!アンタ誰よ!長男の不倫相手でしょ!?出ていきなさいよ!」
……え?
いきなりの修羅場です。
どうやら、私のことを“長男の不倫相手”だと思い込んでいるようでした。
警戒心バリバリで、目も合わせてくれません。
当然、介助どころじゃありませんでした。
身の回りにあるものはとりあえず投げつけられました。静止しようとする長男さんに退席してもらい、いざケアスタートです!
この方は認知症があり、昼間は一人でトイレに行けるけれど、夜は眠剤でぐっすり。
デイは拒否。食事は同居している長男さんが部屋に配下膳、日中はほぼ一人。(お嫁さんとは長年の確執あり)
ご主人亡き後は長男が家業を継ぎ、長男家族と同居して会社の経理を長年されてきたというおばあちゃまでした。
私の役割は、毎朝の大失禁後のケアと、入浴・シーツ交換・朝食の準備。
だけど、そんな状態で、いきなり体を触ろうとしたらどうなるか…。
ご自身は失禁してるなんて全く思ってない。自分で何でもできると思っているので「何しに来たんだ!!」という拒否は当然でした。
葛藤
それでも私は、毎日通いました。
「家政婦の〇〇です」とだけ名乗って。
毎日同じ時間に、同じセリフを、同じトーンで繰り返しました。
「お風呂が沸きましたよ」
「お着換えのご用意ができました」
「今日の朝食はクロワッサンと目玉焼きにしますか?」
それだけです。
無理やり動かすこともなく、相手の表情を見ながら。
今日は無理なら、それでOK。それくらいの気持ちで。
長男さんにもすぐの完璧なケアは難しいけれど見守ってくださいとお願いしていました。
変化
10日目の朝。
「お風呂沸きましたよ。今日は登別の湯です」と私。
「お風呂いい匂いね」とぽつり。
自分からお風呂場に向かう姿に、私は少し涙が出そうになりました。
「お背中流しますね。」「あら気持ちいいわ。上手ね」
小さい小さい背中にありったけのプライドを詰め込んだ素敵なおばあちゃま。
あの日、大暴れされた姿が、遠い昔のことのようでした。
息子さんがホッとされた表情で陰からこっそり見ていたのが印象的でした。
学び
介護拒否って、わがままじゃない。
ただ、怖かったり、分からなかったり、混乱しているだけ。
その不安に寄り添うには、正論より安心感が必要なんだと、私は思います。
“やること”よりも“信頼されること”が、訪問介護の第一歩なんだと。
「この人なら大丈夫」って思ってもらえるまで、少し時間はかかるかもしれないけれど。
でも、心って、ちゃんと届くんです。
焦らず、丁寧に、信じて向き合うだけで。
おわりに
訪問介護では、誰かの生活の中に、一歩踏み込む。
それって、当たり前じゃないからこそ、最初の一歩が一番大切。
あの10日間は、私にとって忘れられない時間になりました。
次回予告
次回は、**「ゴミ屋敷と化した一人暮らしの家での訪問介護」**について書きます。
10年前に賞味期限の切れた食べ物たちの山。。。床が見えない。
それでも「ここがこの人の暮らしなんだ」と思った時、私の中で何かが変わりました。
どう関わる?どう寄り添う?
“きれいごと”では語れない、訪問介護のリアルをお届けします。
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